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抽象的なものを具体化する「ビジュアル化」行程 〜美味しそうなイチゴのイメージをください〜

2016年03月10日サトウヒロシ
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【こちらの記事は、約6分程でお読みいただけます】

はじめに 〜ご挨拶〜

皆さん、はじめまして!東京でクリエイター育成協会の講師をしているサトウヒロシと申します。

ずっと記事を書けと言われ続けてきたのですが、なかなか踏ん切りがつかずようやく書くことにしました(笑)。初めての方がほとんどかと思いますので、簡単な自己紹介をさせていただきます。

僕は、ちょうど今から一年くらい前にフリーになり、現在グラフィックデザイナー、イラストレーター、絵本作家をメイン事業として活動しています。最近は書籍の装丁、装画の仕事が多いです。

こちらのブログでは、僕が日々やっているお仕事絡みの話をちょっとずつ、掻い摘まんでご紹介していこうと思います。どうぞよろしくお願いします!

本日のお題

さて、本日のお題はこちらです。

「美味しそうなイチゴのイメージを用意してほしいです」とお客様にオーダーを受けたら、皆さんはどんなイチゴを考えますか?

イチゴ(複数)

このブログを読まれている皆さんのなかには、デザイナーの方もいらっしゃると思います。普段、手元に素材がない段階から、構想を限定された(今回では「美味しそうなイチゴ」)成果物を用意しなければならない場合、皆さんはどうアウトプットをしているのでしょう??

例えば、今回の場合、「美味しそう」という表現をどうすべきなのか、色々な選択肢があるなかで迷われると思います。

  • 1 写真素材の提供をお願いする
  • 2 素材集から写真かイラストを探す
  • 3 ブツ撮りで撮影するため、スケジュールを調整する
  • 4 イラストレーターに依頼する

この1から4の選択肢で、果たして「美味しそう」なイチゴのイメージを実現できるのでしょうか??

ビジュアルを具体的に表現するには

160310_sub01

1の場合、提供していただく写真の出来が良ければ、問題ないでしょう。お客様もきっと満足。でも、出来が悪かった場合どうしますか?もう、Photoshopでいくら補正してもロクな絵にならない、とか。

2の場合、イチゴなら沢山見つかるのでコスト的にも時間的にも品質的にもそれなりのものができるかもしれませんね。

3はコストも時間的もかかるけど、2よりも良いものを作る必要があります。さて、既存の素材よりも良いイメージってどんなイメージを指すのでしょう。

4はイラストレーターのタッチを見て判断するわけですが、これも2との差別化を図るのがそれなりに難しい。「美味しそうなイチゴを描いてください」というオーダーだけで、果たしてそれが実現できますかね。

ビジュアルに関わるディレクションやデザインは、抽象的、感覚的な世界をお客様と「具体的」に共有する必要があります。「抽象的」な世界を「具体的」に共有する。なんとも矛盾をはらんだ考え方ですので、なかなか難しく、キレイな答えのないものです。

でもだからこそ、ディレクターやデザイナーは、感覚的な世界に対しても造詣が深くある必要があります。表現を言語化したり、簡単なラフをかけたり、適切なサンプルを探し出せたり、それを説明・提案出来たり。

急に「やってみて?」と言われても、すぐに出来るものではないでしょう。答えは意外と、趣味や日常の延長線上にあったりするのかもしれませんね(この文章を読んで「あ、言ってることわかるぅ〜」と思ってくれた方、ぜひ一度お話したいです。仕事をする上で、僕が最も興味を持っているところです)。

デザイナーが考えていく「着地点」=「お客様の満足」

さて、ここまでで感じられた方もいるかもしれませんが、何ともいい加減なお題ではありますよね(笑)。顧客情報ゼロ、予算情報ゼロ、納期もメディアの情報もない。「美味しそうなイチゴのイメージ」といっても、これだけ情報が与えられなければ何をして良いのかわかりません。

今回、このお題をもとに、事前にクリエイター育成協会の講座を受講されたことのある皆さんへ質問を投げかけてみたところ、いい加減なお題にも関わらず、いただいたコメントの踏み込みが深くて、いやはや驚きました。やはりみなさん、常日頃から向き合っている課題なのだなぁ、としみじみ。

ザックリ結論を言ってしまうと、ゴールは「お客様の満足」です。ただ、そこに至るためには僕らプロが何らかの形で道を示したり、導いたり、気づく機会を作ったり、個別に考えていく必要があります。

つまり、「着地点のアタリ」はつけるのは、僕たちの仕事。例えば「美味しそうなイチゴ」の「美味しそう」といった「感覚や感動」に対して、プロ側である僕たちが具体的なイメージを持てていないと、そのアタリをつけることはできませんよね。そこが、今回の記事のポイントです。

皆さんから寄せられたコメントをチェックしました

では、せっかくコメントをいただいているので、いくつか解説を交えて行きたいと思います。

■M.Iさんからのコメント
「お客様に立ち会っていただいて写真撮影を行いたいですねー」

「立ち会い」「写真撮影」というのは、時間もコストもかかりますが、現場で相談しながら進められるというのはある意味理想です。作り手としては、是非この方針に持ち込みたい!さて、そこに持ち込むには、事前にお客様にこの方針のメリットを理解していただく必要があります。どう進めましょう。

たぶん、さらっとこの方針が出てきちゃうM.Iさんは、頭の中に実際のお客様(のイメージ)が思い浮かんでいるのでしょう。経験値を感じます。

■E.Mさんからのコメント
「実際に美味しい写真と、人間の目が美味しそうと感じる写真は違うんだ〜という事を思い出しました」

まさしく、「美味しそう」に対する「イメージの引き出し」を作り手側が持っていないと、お客様が満足される成果物を作れない事例です。お客さんは自分のところの商品が美味しいことを知っているから、そのまま商品を僕らに渡してくるかもしれません。でも、その美味しさって、まんま撮るだけで伝わるのかな?というところです。この答えはお客様に聞いても教えてくれないんですよね。なんせ、既に商品を渡しているわけですから。さて、どうする?どう撮る?

■R.Fさん、S.Mさんからのコメント
「イラストも写真も混ぜた、いろんなイチゴの画像のイメージボードがあればより共有しやすい」
「思いつくエレガントな画像を集めてお客さんのイメージを探る」

イメージボードの役割は、ぼんやり浮かんでいる「抽象的なイメージ」を「具体化」した状態で共有することと、お客様も、僕らも思い込みで方針を決めつけず、フラットにイメージを整理するところにあります。イメージボードはいいですよねぇ。大きなプロジェクトでは是非一枚は作って、全体の色調やモチーフのトーンなんかをこのツールで探りたいです。

これを簡易的にやっていく方法が、その場でラフを描いたり、近いと思われるサンプルをピックアップしてお見せしたりしながら、お客様とイメージを摺り合わせていくやり方。お客様には言葉と選択肢を提示しつつ、誘導していくことになります。
イメージを摺り合わせていくためのアプローチ、ケースバイケースで使い分けられるようにしておきたいものです。

■J.Mさんからのコメント
「そのためにどれだけその事柄に対する情報を共有したり、議論できるか。ここの時間のかけ方ややり方でクオリティーって大きく変わったりするのかな〜」

もうね、システム側の「イメージの共有」ってすごく大変なので、言葉に滲み出てますよね(笑)。まさしく考え方は同じですが、システム設計はこと「専門性」や「とっつきにくさ」という点において、お客様から理解と満足を勝ち得るのがとても難しいジャンルと思います。

議論する時間もコスト。だからかける時間は短かければ短いほど良いわけですが、端折るわけにはいきません。では、ゴールに至るまでの最善のルートは、どこにあるのでしょう。

「納得出来るイメージ」を表現・共有できる選択肢を選ぶべし!

いやはや、こうしてコメントが集まってくるととても勉強になります。おしなべて「これがベスト」という方法なんてもちろんありませんが、「そのお客様に合った方法」なら見つけられるかもしれません。

僕は絵描きなので、提案はラフ絵で説明することが多いです。
イチゴの説明をする際のラフ画像

「美味しそうなイチゴのイメージ」をイラストで作りましょう、ということならば、

  • 写実的な表現でいきましょうか?
  • 記号的な表現でいきましょうか?
  • キャラクターでいきましょうか?
  • ・雰囲気で伝えるようなぼんやりしたイメージでいきましょうか?
  • ・誰かが食べているような、シチュエーションでいきましょうか?
  • タッチは?ストイックな線画?ポップなべた塗り?水彩の柔らかい感じ?

などなど、頭の中では色んな選択肢が出てきます。

でもこんなの一つ一つお客様に聞くわけにはいかないですね。だから、私はですが、「アタリ」をつけて導く。その場で描けちゃうなら、描いちゃう。その間、ずっとお客様の反応をみて、「ビビッ」とくる瞬間を見極めるんですね。あ、これが結構楽しいんですけど。
イチゴを描く(タイムラプス)

でも…

■N.Tさんのコメント
描き始めの段階で着色の順番をちゃんと計画しておかないと失敗しちゃう。
その辺り、最初は難しそうですね。

そう、最初は難しい、というか、ずっと難しいです(笑)。アタリを外したときなんて、目も当てられない。「抽象的」を「具体的」にしていく作業は、J.Mさんも「大きな命題」と書いてましたが、僕も同感です。

さて、今回はこの辺りでシメさせていただきますが、また、切り口を変えて記事にしていきたいと思います。ちょっとずつ、小出しに。ご感想・ご意見、ピックアップして欲しいテーマなど、リクエストがありましたらぜひご連絡ください。

デッサン技法講座でも、こうした今日のようなトレーニングを繰り返し短時間のなかで行い、感覚を磨いていきます。良かったら、今日のイチゴについても、描き方のコツを伝授しますので、気軽に遊びに来てくださいね^^

それでは、最後までお読みいただきありがとうございました!また次回!

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